昨日、「美味いや安いは必ずしも売れる要因ではない、にも関わらず安くて美味い店という特徴で戦おうとする為、レッドオーシャンになってしまっている」とお話しました。では、なぜ「安くて美味い店」は「安くてそれなりの味の店」に勝てないのか、今日はその事についてお話ししたいと思います。
商売をする上で商品の値段は、安いものが売れやすく、高いものが売れにくいと言う特徴と、それに対応して、安いものの利益が少なく、高いものの利益が大きいという特徴があります。
当たり前ですよね。
そうなると、安いものを売る商売を行う場合に、考えないといけないのは、たくさん売らないといけないということです。
そうなると非常に大切になってくるのがリピーターです。
リピーターは、安価な商品であれば、どんなものを売る場合でも大切ですが、特に大切な場合があります。
それは、買ってくれる人が限定される場合です。
たとえば、性別や年齢層が限定されていたり、地域や時間が限定されている場合です。
イートインの飲食店は基本的に地域限定型に入ります、さらにランチ営業は時間の限定もあるため、更に商圏が狭まりますので、もっともリピーターが大切な商売のひとつです。
リピーターが生まれる要因は色々ありますが、特に心理的に大切なのは敷居の低さです。
よく店舗に使われる色使いで、高級店は黒が多用され、安売り店は明るいオレンジや黄色などが使われます。
それは、人は心理的に暗い色に敷居の高さを感じる為、高級店では黒を多用し特別感を演出しているのです。
また、同様に心理的に明るい色は敷居の低さを感じる為、 安売り店では明るいオレンジや黄色を使い、お店に入りやすくする効果を狙っている訳です。
それを味で考えた場合、安いに対して敷居が低いのは不味い(※ここでは価格相応の味)であり、安いに対して敷居が高いのは美味い(※価格以上の価値の味)なのです。
もちろん、食事をした時に自分が感じる気持ちは、安くて美味しい方が良かったと思うのですが、深層心理的には「この値段でいいの?」と、負担を感じているのです。
その為、よくよく考えてみると、安くて価格相応のお店には週3で通っているのに、安くて美味しい店には月1~2回しか行っていないというような状況が生まれるのです。
本来、価格で勝負しようと考えた時に着目しないといけないのは、どうすればリピーターを付けられるのか、さらにもっと早く、もっと多くリピートして貰えるかというところを考えるべきなのに、ミスマッチな美味いというところで勝負してしまうと、商売は難しくなってしまいます。
わかりやすい例でいうと「かつや」がリピーター商法の良い例です。
「かつや」の価格帯は客単価1000円以下の安価な飲食店ですので、上記のようにリピーターがとても大切です。
なので、短いターンでキャンペーンメニューを用意することで、お客さんの興味を引くことや飽きが来ない事を演出。
毎回期限付きのクーポン券を渡すことで、再訪のきっかけを与えるといったところがリピーターを増やす代表的な戦術です。
更に、店舗の色彩も明るい色に統一されていますし、入り口側はほとんど全面ガラスで店内が見えるようにすることで安心感を与え、敷居を下げています。
リピーター戦略以外にも、巧みに回転率を上げて客数を稼ぐ戦術も取られています。
店内に入るとすぐ目の前にカウンター席を配置して、回転率の良いカウンターに誘導、もちろん椅子は絶妙に高くて小さいので心理的に長居しにくくなっています。
こういった戦術は口で言うのは簡単ですが、戦略に合わせてトータルで実行出来なければ十分な効果を上げることは難しいですし、誰もが戦略や戦術以外の「こうしたい」という嗜好に左右される為、わかっていても出来なかったり、客観的に見ていればすぐに気付くようなことでも、主観的盲目になってわからないまま突き進んでいくということが往々にしてあります。
例えば、ランチ平均価格が1500円とランチにしては高めの設定のお店が、「ランチ時間は短いから回転率を上げないと…、カウンター席で椅子が高くて小さいと回転率が上がるって聞いたから、改装しよう。」と決心し実行…
結果は「席が1/3も埋まらない…、回転率以前に改装前のお客さんが離れていく…」という状態に…
他にも「よし、ランチを始めるのでキャンペーンを打とう!」と夜の常連のお客さんにクーポンを配ったり、ビラを作って近所に撒きました。
しかし、元々このお店の魅力はゆったりくつろげるのが魅力的な、坪数に比べ席数が少なくしかも大部分がソファー席という店舗でした。
結果は、キャンペーンで来店した2組8名のお客さんを相手に、普段は特に時間を気にしないで提供していたのと、いつもと違いワンプレートに多くの品数を用意しなければいけなかった事もあり、オーダー提供が終わるまでに30分以上時間が掛かってしまい、夜の常連のお客さんを失ってしまう…
上記はフィクションですが、実際に似たようなケースは多々ありますし、一つのアイデアを良かれと思って実行しても必ず良い結果が得られるとは限りません。
トータルでの戦略があり、それに乗っ取ったアイデアでないと、いくらアイデア自体は良いアイデアでも、お店の特徴とのミスマッチで簡単に失敗の引き金になってしまいます。
結論としては、値段設定と顧客層、地域、時間など限定要因を元に戦略を考え実行すれば、飲食業界も十分戦える業界だが、戦略とは全くかけ離れたところで「安くて美味い店は流行る」という迷信を信じてしまうとレッドオーシャンに飛び込み、後は「この店をいつ辞めるのか?」と日々自分に問答して過ごすことになってしまうのです…
それでは、今日はこの辺りで。